「結構イケるじゃん。」
私は鏡に映る自分にそう話しかけた。初めて使ったアイライナーが思いの外キマったからだ。
偶然の初即(リンク:偶然の初即~ナンパ師になったきっかけ・前編~)をきっかけにナンパ師になり早4ヶ月。その間40代の女性を 即 れたのみで、とんだ ショボ腕 だった。
とはいえ、ナンパのノウハウ収集や スト値 上げ、毎週末の 出撃 により次第に 案件 の反応は良くなり、たまに 番ゲ や 連れ出し ができるようにはなっていた。
ただ、やはり ゲット が欲しい。それも、できればアラツー(18~24歳)の。
では、アラフォーの私がアラツーと出会える場所はあるのか。
答えは「YES」。毎年「いしかわ四高記念公園」で開催されている「合同学園祭」に 出撃 すれば良い。この日、この会場はJD(女子大学生)の祭典となる。
そして、それは今日なのだ。
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「でも、ちょっと濃くし過ぎたかな。」
改めて鏡を見つめると、目を黒く囲うことで目元は引き締まったものの、いかにも描いた感じになってしまった。
「男のアイメイクってバレると気まずそうだな・・・。」
と少し後悔しつつも、
「まぁ出撃するのは夜だし、照明の直射を避ければ問題ないだろう。」
と、このまま臨むことにした。
夜に出撃するのには理由があった。会場の近くの兼六園でも「中秋の名月観賞の夕べ」なるイベントを催しており、連れ出し先として使えるからだ。
なので私は、合同学園祭で 声かけ して兼六園に連れ出し、片町で即るという導線でいた。
心躍る土曜日の出撃。私は会場へと車を走らせた。
19時半に会場に到着すると、外は天気も気温も穏やかで、何より丸い薄月が魅惑的で絶好の月見日和だった。
↑遠吠えしたくなるような月・・・。
早速メインステージへ。するとそこには多くの観客が詰めかけていた。
その視線と歓声を浴びていたのは・・・。
選りすぐりの スト高 JD達!
↑合同学園祭に関する画像は創ル部(@tukurubu)さんより拝借致しました。
どうやらファッションショー真っ只中のようだ。
しかし、私は日陰者。表舞台から離れた縁石に座り、行き交うソロ案件を サージング する。
すると、スト高が多いことに気付いた。それもそのはず、ステージコンテンツに「公開芸能オーディション」や「ミスコンテスト」があり、その出場者も紛れているのだ!
↑日中からスト高JDが屯していたとは。もっと早く来れば良かったw
・・・で、さっきから気になっているのが私の10mほど先をうろついている1人の女性。暗くてよく見えないがアラツーだろう。
そしてこれは勘だが、「ナンパ待ち」っぽく見える。
女性の周囲には私の他に大学生らしき男2人組もいたが、彼らもこの”案件”を意識しているようだった。
私はまだ他人のナンパを見たことがなく彼らを興味深く観察していたが、案件に聞こえるように自慢話を繰り広げるばかりで一向に声をかける気配はなかった。
当然案件は無反応だったので、私が声をかけに行った。
「こんばんは。」
「こんばんは。」
「こんなイベントやっていたんですね。」
「そうなんですよ。」
ここで初めて相手の顔を見たが、クソ可愛かった。
案件は見知らぬ私の(それも場違いなオッサンの)声かけに全く動じていなかった。
それどころか私に1度満面の笑みを作って見せた。
その瞬間、背筋がゾクッとした。
何なんだこの余裕は。「貴方は第一関門を突破しました。」とでも言いたいのだろうか。
そして、信じられないことに案件は近くの誰もいないスターテントに入り、ローチェアに腰掛けたのだ。
促された訳でもなく私も隣に座る。まるで、「そうしなければならない」かのように。
それくらい案件には自信があった。
突如として始まった初スト高戦。ローチェアに浅く腰掛けた私は2次面接に臨むような気分だった。
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2人は簡単な自己紹介と、今ここにいる理由を話した。
案件はこの合同学園祭に参加している大学のOGで、後輩を手伝いに来ていたが一段落ついて散歩中らしい。
「私は兼六園に行く途中だったんだけど、この会場から素敵な音楽が聴こえてね。それで寄ったんだよ。」
「そうだったんですか。」
「君は音楽鑑賞は好き?」
「はい。好きです。」
「いいね。実は今から兼六園で楽器の生演奏があるんだよ。」
「そうなんですか。でも私が好きなのはボーカロイドやアニソンなんです。」
「そっか。どっちもニコニコ動画でよく観てるよ。カラオケで歌ったりもするの?」
「友達の前では歌わないです。みんなは知らないので。」
「なるほどね。」
この時、「カラオケ 打診 」が私の脳裏を過った。しかし、まずは兼六園デートをしたかった。ロマンチックな雰囲気の中で自然に距離を縮めたかったのだ。
むしろ、ここでワンクッション挟んでからカラオケ打診する方が自然だし、個室の中でより親密になれる気がした。
なので私は空を見上げながら、
「ほら、見てよこの大きな月。この月明りの下で生演奏を聴くと癒されるし、幻想的な写真もいっぱい撮れるよ。」
などと、兼六園デートの提案を始めた。
すると、案件は急に立ち上がり、
「ちょっと移動しますね。」
と言って私に背を向け、歩き出した。
「・・・え?」
移動?まだ出会ったばかりなのにここに私を置いてどこへ行くのだ?
私は戸惑いながら、
「あ、待ってればいい?」
と訊くと返事はなかった。だが、案件が肩越しに見せた”私を蔑む目”は、
“もう戻らない”ことを伝えていた。
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その場に取り残された私は暫し茫然としていたが、徐々に後悔の念が込み上げてきた。
「クソッ!導線にこだわりすぎたか!」
いきなりの個室であろうがカラオケ打診すれば良かったのだ。それなのに相手に無関係な話を持ち出してしまった。そして失望され見限られてしまったのだ。
案件の笑顔や誘導が”即のお膳立て”だったのかもしれないと思うと余計に悔しくなった。
が、今は戦場だ。気を取り直して再開せねば。
一旦深呼吸をして辺りを見回すと公衆トイレに順番待ちが出来ていた。そして、ちょうど用を済ませたソロ案件が出てきた。酔っているのかやや千鳥足だ。
「こんばんは~!月が綺麗ですね!」
「えへっ!・・・あ・・・。」
案件は最初の一瞬だけ笑顔だったものの、すぐに真顔になり去っていった。
むう。次だ。同じく公衆トイレから出てきたソロ案件に声かけ。
「こんばんは~!昨日夢でお会いしましたよね!?」
「・・・いや、会ってないです。キモッ。」
また立ち去られる。
3声かけ、4声かけと続けるもことごとく塩対応。
耐えろ。よくあることだ。ここで”べそ”をかいたらお終いだ。むしろ、こういう時こそ「朗らか」に努めるんだ。相手はこちらの事情など汲んではくれないのだから。
しかし、いくら声かけを重ねても状況は変わらなかった。
―――もう、無理なのだろうか。
心の奥底から声がした。
今までずっとこんな調子だ。 ガンシカ 、塩対応は当たり前。仮に連れ出せたとしても、
- 全く主導権を握れず飽きられたり、
- ギラ つくタイミングが早すぎて逃げられたり、
- 単なる”奢られ目的”だったり、
と散々な負けばかりだった。
そんな苦い過去を振り返りながらストっていると合同学園祭が終わってしまった。殆どの照明は消え、会場は人の声より虫の音が耳に届くようになった。
すると、運営スタッフの1人だろうか、ホウキとチリトリを持って歩く案件を発見。声をかける。
「お疲れさまです!月明りのおかげでゴミがよく見えますね!」
「・・・あ?」
「月が綺麗ですよねって。」
「あ?」
「いや、ほらあの月が・・・。」
「オッサンさっきからここで何やってんだよ!鬱陶しーんだよ!どっかいけよ!」
急に大声を張り上げられ、私は立ちすくんだ。
赤の他人だからこそ向けられる容赦ない視線。私はヘビに睨まれたカエルのようだった。
案件の周りに他のスタッフが集う。私は堪らなくなりその場を離れると、背中から嘲笑が聞こえた。
真っ暗闇まで歩き大きなため息を吐いて空を見上げると、月が霞んで見えた。そして、目を擦れば擦るほど視界がぼやけた。
「ん?何かおかしいな。―――まさか!」
私は急いで駐車場に戻りルームミラーで自分の顔を確認した。
「クソッ!やっぱりか!」
両目のアイラインが滲み、パンダ目になっていた。
これじゃ反応が悪くて当然だ。
しかし、次の瞬間私は言葉を失った。それぞれの目の下に「黒い一筋の線」が入っていたのだ。
まさか・・・
私
泣いていたのか・・・?
泣きながら、「元気に声かけ」していたのか・・・?
「これじゃ、とんだ道化師じゃないか・・・。」
「う、」
「う、」
「うああああああああああああああっっ!!!」
抑圧していたネガティブな感情が一気に全身を駆け巡る。ハンドルを掴み前後に揺さぶると車全体がゆらゆらと揺れた。
ナンパは非常識な行為だというのはわかっている。そんなことは重々承知だ。
「だとしてもっ・・・!」
「私はただ、自分で出会いを見つけたいだけなのに・・・!運命の人に逢いたいだけなのに・・・!」
嗚咽混じりにそう叫ぶと、黒い線の上を涙が伝った。
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人生は苦痛ですか? 成功が全てですか?
僕はあなたに あなたに ただ 会いたいだけ
みすぼらしくていいから 欲まみれでもいいから
僕はあなたの あなたの 本当を知りたいから
響き消える笑い声 一人歩く曇り道
僕はあなたに あなたに ただ 会いたいだけ―――平井堅「ノンフィクション」より
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清水さん
私も怒鳴られた瞬間は「怖っ!」ってなりましたが、多分先に怖がらせたのはこっちなんですね。。もちろん怖がらせるつもりはないんですが、見知らぬ男が話しかけてきたこと自体怖かったのかもしれません。ナンパはガチな反応が返ってくるのが面白さでもあり怖さでもありますよね・・・
いつも楽しみに読まさせています!
怒鳴る女の子ちょっと怖いですね